閑話

 

うちのばあちゃんの家のトイレってのは、もと離れだったのを後から母屋とくっつけたもんだから、ダイニングから割と離れてる上に仏間の隣を通らなくっちゃあならない。そうなるともう、幽霊が出るかもなんていうのは思わずにはいられないんだな。

 

トイレには扉が二つあって、奥側が引き戸なんだが、それをどの程度閉めるどうかというのが、いつも最大にして重要の問題なんだ。

ちょっと開けとくと、ついてきた幽霊が手をかけるかもしれない、手がかかるのを見るのは恐ろしい、そんな隙間を開けとくのはやめようって考える。でも完全に閉めたとすると今度はどうだ、突然ガラッと開けられた時、どうすりゃいいんだ?前触れもなく、防御体制もなく。それに、完全に閉めちまうと、開けられるかもしれないっていうその悪い想像と常に葛藤してなくちゃならない。じゃあちょっと開けとこうかってなるわけなんだ。

 

突然なんでこんな話をしたかっていいたいんだな。いや、いいんだ、自分のいろんなちょっとした迷いというか、考えごとにちょっと似てるような気がしたからさ。

 

 

一本道の帰り道

 

駅から降りて家につくまでの15分間の帰り道は、頭をからっぽにして歩いていくそれだけのための時間だ。

夜の一歩手前の空は、きのうきていたシャツの色に似ていた。

いくつか星が見える、それらの星は、ほんとうに物理的には、手が届くんだよなあなどと考えながら歩く。わたしと星との間にさえぎるものがなにもないのでひかっているのがここからでもみえるのだから、心からのぞめばいいのかもしれないなどと考えている。

一本向こうのマンションの玄関から、ただいまぁという声が聞こえて、お母さんの帰宅を知る。まどのひとつひとつの中に、世界があることを想像する。

近頃かぜがよく吹いたので盛況だった軒先の風鈴は、今日はしずかにしている日なのだとか。

自転車に乗った高校生とすれ違う。すれ違うとき、おたがいすこしずつ相手を見て、すぐにみなかったふりをしてしまう。

ぼうっと歩いていると、ねこにつまづきそうになっていたのに、気づかなかった。とっさにごめんごめんと謝る。ねこはめんどうなものを見るような目つきで向かいのマンホールの上に寝そべった。金属だから多分あったまっている、(おそらく彼の)ベットなんだろう。

家につくと、母がごはんを作って待っている。背中が小さくなっているのをふとみつけて心がきしむけど、それも今はみないふり。妹が予備校を休み続けているらしい。

 

思い通りにならないことばかりだし、うまくいかないことばかりだし、いつも終わったことを後悔するばかりなのはここ3年間かわっていないけど、今はなんとか、これで、少しづつやっていこうと思っている。

 

 

興味がうつりうつっていく自分を、少しは受け入れられるようになったかもしれない。

 

夏にしては寒すぎるが春にしてはあつすぎる、心地のいい時間だと思う。せまい世のなかで、魚のようにおよぐ。窮屈だなんて、そんな傲慢なこと、ね。

 

明日はなんだかな、いい日だといいなあ。

人間にしかない(かもしれない)もの

 

飛び降りて死ねなくて、正常な自分が悲しかったので、記憶喪失になったふりをして泣くっていう夢をみました。

少ない友達が見舞いに来てくれて、名前を思い出そうとするけど出てこない、という演技を一生懸命する。現実の自分は泣きながら目が覚めた。

 

同情してほしいんだろうか。誰に甘えているんだろうか。居心地が悪い。