白と黒で

おもむろに魔女は私の首根っこをつまむと、窓の外、真っ白な大地に放り投げて、「さあ、ここはあなたのものだから、自由に、何をしたっていい」と微笑んだ。

思えばあの笑顔は、ただその白に怯えて立ちすくむことしかできないわたしを、予感していたものにちがいない。

 

雪の女王のごとく大地から城をひっぱりだせるひとはほんの一握りのものであって、自分はそれをできる人間ではないと気がつくのに遅れれば遅れるほど、そうではないとすべてを振り払って叫びたい気持ちになる。

何かを生み出すことは自分の身を削ることであって、自分がどこまでもかわいい私は平和に五体満足で歩いてきてしまいました。誰かに「許すよ」といってもらいたい。嘘、言ってほしくない。

 

見上げるといつの間にか夜だった。夜はわたしが存在することを否定も肯定もせず、ただひたすらにそこにある。ゆっくりと息を吸う。気管の壁を空気が擦っていく感触がまだ存在していて、わたしは初めて安心する。


眠りはすぐにやってきた。しばらくは目を閉じても意識がある。絵を見てから出発しようと思っている。音楽を聴いてから出発しようと思っている。